2013年7月8日月曜日

Bruce Langhorne - The Hired Hand



 ここまで音数を丹念に絞り込んだ音楽も稀である。ラングホーンほど「弾かないギタリスト」という言葉がしっくりくる演奏家いないだろう。

 デュランの「Bring It All Back Home」や「Blonde On Blonde」での客演で知られるラングホーン。名曲「ミスター・タンブリン・マン」とはスタジオでデッカいタンブリンを振り回していた彼がモチーフだそうで。


 本盤は1971年に公開、「イージーライダー」のピーターフォンダ初監督作品「さすらいのカウボーイ(The Hired Hand)」のサントラ。ビデオテープの音源をそのままマスタリング、版権諸々適当にリリースしたようなCDは昨今出回っていたが、2012年米scissortailrecordsより1000枚限定でプレスされたもの。

 こちらはオリジナルのマスターテープを使ったのか非常にクリアな音色。またCD盤の「高速道路のお土産」のようなジャケットから一変、映画からのカットを使った非常にスタイリッシュなものに。


 全編ラングホーン1人で幾多もの楽器が演奏、オーバーラップされてゆく。オープンチューニングを施したバンジョーやギター、そしてたゆたうフィドルやアナログシンセの音色は1969年のガレージ宅録音源とにわかに信じ難いほど、美しく、アーシーで、音響的であり、ミニマルで、そして曲の短さやその陰影的で捕らえ所の無いメロディもあいまって、余りに儚い。
 
 同じくアメリカーナを代表し、由緒正しき継承家としてだけでなく近年音響ギタリストとしても再評価されるJohn Faheyなんかとはかなり近い畑ながらも正反対の印象。

 しかしどの楽器を演奏させても独特な音色、スタイルであるが、そこには彼の身体的なハンディが関係している。ギタリストとしてはおろか、楽器演奏家としては致命的であろう、左の指2本の自由が利かないという。ギターなら繊細なフィンガリングが要求される、弦を押さえる方の左手がだ。


 この事実を耳にした時思わず「うーむ」と唸ってしまった。


 同じく左手の自由が利かない天才ギタリスト
Django Reinhardtは自身の障壁を見事に乗り越え最高にホットな演奏を数多く世に残した。しかしラングホーンの演奏はそのハンディを乗り越えるでなく、受け入れたように感じる。慈愛に満ちた繊細で儚い彼のスタイルは、自身を見つめ直した末の悟りの境地と勝手に思っている。


 映画もとても良かった。実に男臭くて。
 
 何はともあれ、在庫あと僅かのよう。地球上で1000人もの人がこの音楽の素晴らしさを共有しているなんて素敵な話。この至極地味でそこぬけに美しい音楽を。。

岡田








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