2013年1月21日月曜日

Sam Prekop - Sam Prekop


 針を落とした瞬間にハッとさせられるのだ。イントロのギターがつま弾かれた瞬間、音楽は水の上を飛び跳ねる魚となる。


 The Sea And CakeのフロントマンSam Prekopによるソロ作1st。
 
 Al GreenとCurtis Mayfieldをフェイバリットに挙げるサムであるが、僕は彼の柔らかい歌声や音楽を聴くといつもAntonio Carlos JobimやChet Bakerを思い浮かべる。きっと好きなのだろう。ここで演奏されるのは、彼のそんな側面を感じさせるブラジリアン、ボッサ、そしてジャズからの影響を感じる音楽。
 
 しかし「ただのそれではない」と付け加える。ボッサやジャズがシカゴ音響一派により現代的に再構築され、The Sea And Cake印の軽やかにバウンドするビートのもと演奏されるのだ。
 
 またプロデューサーJim O'rourkeもこのレコードの注目すべき点の一つ。


 前途で述べたよう、冒頭のボッサ風の一曲「Showrooms」からして秀逸である。ベスト一曲目賞に推薦。このイントロを聴いただけでこの後の45分間がどれだけ素晴らしいもであるかが容易に浮かぶ。そして事実素晴らしき45分間を提供してくれる。数知れず存在するレコードの中でもこんな一枚そうそうお目にかかれない。

 そしてラストの「So Shy」。タイトルからして最高である。こちらはサムのソウルミュージック趣味が押し出された珍しい一曲。後半、James Jamersonが弾くようなフックの聴いたベースラインに乗せ楽曲がミニマルに展開して行く様は、実にシカゴ的で趣味が良い。

 
 メンバー

Sam Prekop (vocals, guitar, piano)
Chad Taylor (percussion)
Josh Abrams (bass, piano)
Archer Prewitt (guitar, piano)
Jim O’Rourke (organ, backing vocals, guitar, steel guitar, bass)
With:Julie Pomerleau- (violin, viola)
Rob Mazurek (cornet)
John McEntire (triangle, maracas)

 自身のバンドメンバーもちらほら。


 写真家、画家でもあるサム自身によるペイントのジャケットもとても良い。彼のスタイリッシュでインテリジェンスな音楽によくマッチしてるように思える。


 ジャケットもラベルデザインも良いので是非アナログで手にしてもらいたい一枚であるが、日本盤CDには2曲もボーナストラックが入っていますのでこちらもおすすめ。

 ちなみに僕は両方買いました。良い買い物。

岡田

2013年1月18日金曜日

Derek Bailey - The Music Improvisation Company


僕がDerek Baileyという男の名前を知ったのは、ギターを初めてかなり早い段階で、今考えるとおかしな話であるが小学校6年生の2月に。当時なけなしの小遣いで買っていたギターマガジンの誌面上にて。



2004年2月号、僕のアイドルだったジョンレノン特集の裏でひっそり「ノイズギターの世界」なるものが掲載されてた。インタビューが、JOJO広重さん、大友英良さん、そして締めが灰野敬二さん、という凄まじい企画。今後2度と無いであろう。

        

そこで初めて、フルアコを抱えたとても地味な出で立ちの彼を目にした。
偉大なる世界一謙虚なイギリス人ギタリスト。


僕には生粋のアバンギャルドな素質があったのか、小学生の時からジミヘンのテープコラージュやビートルズの「レボリューション9」なんかをカセットテープで繰り返し繰り返し聴いていて、よくエルレガーデンが好きな姉に「気を違えたのではないか」と心配されたものである。高校1年の頃、初めて触ったMTRで作ったのも大半が短波ラジオとエフェクターを駆使したおかしないわゆるノイズミュージックだった。

しかしそれはいわゆるビートルズ、ジミヘンを初めとしたロック勢からの影響で、Derekの音楽に面と向き合うようになったのは、高校3年の初め、Jim O'rourkeと出会ってからだ。彼のフェイバリットミュージシャンに挙げている2人のうち1人はJohn Faheyという奇天烈変人。そしてもう1人がDerekだった。

図書館でECMのレコード発掘に勤しんでいたジム少年が、偶然Derek Baileyの「The Music Improvisation Company」というレコードに出会う。この虫の音のような断片の音楽をどう聴いたのか興味深い。
ともあれその「虫の音のような」ギターの虜になったジム少年は、シカゴからイギリスのデレクへとファンレターを書き、10代の初めに渡英し直接会いに行ったという。すごい話である。


ともあれそんな訳で僕はDerekと再会した。高校3年の春に。


メンバーをざっと紹介すると、

Derek Bailey (G)
Evan Parker (SS)
Hugh Davies (Electronics)
Jamie Muir (Percussion)
Christene Jeffrey (Voice)

うむ!最高!

…とここまでだらだらと退屈な文章を書いたのだが、このレコードについて書き表すというのは僕にとって余りにも難しすぎる。
この水たまりを打つ雨粒のような音楽は、瞬間に空気を揺らし、しっぽを掴もうと手を伸ばしたその時にはもうそこには存在しないのだ。何一つとして捕まえる事が出来ない。


''When you hear music, after it's over, it's gone in the air. You can never capture it again.''
なんて言った男の事を思い出した。

岡田

2013年1月15日火曜日

John Renbourn Group - Live In America


本日の一枚。



鬼才John Renbourn率いる自己名義のグループ。ライブ盤。2枚組。
とりあえずメンバーを挙げると

John Renbourn     guitar, vocal
Jacqui McShee     vocal
Tony Roberts        flute, krumhorn, northumbrian small pipes, vo
John Molineaux    dulcimer, mandolin, fiddle, vo
Keshav Sathe        tabla

メンバー各々の情報は持ち得てないが、何ともそそる楽器編成。
いろんな楽器を持ち替え立ち替えするバンドは総じて好みである。

針を落としてまず驚かされるのがライブ盤とは思えぬ音質の良さ。
そしてアレンジ、演奏の素晴らしさ。もちろんライブならではの臨場感は言うまでもなし。

普段ライブ盤というとそれこそジャズとGreatful Dead以外余り聴かないのだが、
こちらはとても愛聴している。(それこそ現場のミュージシャンという点で彼らはほとんどジャズミュージシャンの集いみたいなものであるのだろうが…)

3枚目の冒頭でお客さんから笑いを取るRenbourn氏。
怖い顔だが意外とおしゃべり上手のようである。

ケルト、ジャズ、フォーク、ブルース、ラーガ、室内楽…
良質なチャンポンミュージック

岡田



2013年1月14日月曜日

Bruce Cockburn - Salt, Sun and Time

本日も冬の一枚。

お金もないのに「SSWものは必ず当時の、それもその人物が生まれた国のオリジナル盤を手に入れないと気が済まない」という変なこだわり(昨日紹介したTony Kosinecは例外っす。年内にオリジナル買うっす)があるため、冬の名盤という話をすれば必ず出てくるBruce Cockburn「冬の世界」は、高嶺の花でなかなか手が出せない。

去年の秋、冬越えの仕度にやむを得ず購入したのがこちら。
見開きジャケのカナダ盤。


レコ屋のSSWコーナーで異彩を放つなんだかお尻みたいなジャケットであるが、
パラリとめくれば…


なるほど。
彼は窄めた自身の指先に船(世界)を見出したのでしょう。


カナダ出身のSSW、1974年発表の5作目。

彼の作品全般に言えるのだが、圧倒的にジャズである。

SSWでジャズと言えばDavid Crosbyも後期コルトレーンに多大なる影響を受けたというが、それはスピリチュアルな精神世界でありまたタイプが違う。
Bruceのこのレコードを初めて聴いたときその肌触りに「Django Reinhardt」を感じた。もっと音楽的にジャズである。

自由とは何であるか。男は海辺の階段に腰掛ける。
煙草をもみ消し、男は二本の人差し指と二本の親指の先をあわせ、その先に世界を見る。

沖に浮かぶ船は水平線をほんの少し離れた。

冬の太陽は眩し過ぎる。

岡田


2013年1月13日日曜日

Tony Kosinec - Bad Girl Songs

''取り立てて分けも無いけど、ただ行ったり来たりするのが好きなのさ。いいのさ、毎日を意味もなく、行ったり来たりするのさ。たいしたことなんてなんにもないのさ。でもいろんなことが気になるのさ。この文章にやたら「さ」が多いとかね…''
Tony Kosinec - Bad Girl Songs 

日本盤 黒田日出良氏のラインノーツより冒頭を引用


冬の一枚。
大人達のオーバープロデュースにより、まるで下手なプログレと化した1stから1年。
JT発掘人として知られる名プロデューサー「Peter Asher」の手を借り、コジネク22歳の年に完成させた2nd名盤。

前作と打って変わって、アコースティックギター、ピアノ、ベース、ドラムを中心としたミニマムなバンド編成。時折登場するフルートがとても良いアクセント。

針を落とすと小気味よくチリプチと鳴り流れてくるA面1曲目

''The world's still burnin shining while the sun is bright''

という出だしで始まる『The World Still』を聴けば誰しもその世界に引き込まれるだろう。

B面終わりの『My Cat Ain't Comin' Back』まで一切捨て曲無しの正真正銘の名盤。

そしてその世界は次作「Consider The Heart」にて頂点に達する。


買うなら黒田日出良氏、中川五郎氏、名コンビのラインナーが付属する日本盤が絶対おすすめ


それにしても


「Bad Girl Songs」

実に良いタイトルである。


今年で僕も22歳である。


岡田